2016-12
ENZA fieldwork #001 「MADAKE」
ENZA fieldwork #001 「MADAKE(マダケ)」
冷たい雨の降る11月27日の朝、土着ワークショップの講師でお世話になっている竹細工職人の阿部晋哉さんに同行し、山形県鶴岡市温海町鈴地区にあるマダケ(真竹・カラ竹)の地区共有林での伐採の様子を見学させていただきました。
マダケは竹細工、特に編み細工に適した種類の竹で、日本では青森が栽培の北限とされているそうです。中でも温暖な気候の九州の真竹は質が良く、大分は全国一の産地だそうです。
そんなマダケの竹林が東北の山形にあり、現在も「地区の共有林として、地区の有志たちによって維持管理されているのは、なかなか珍しい例ではないか。人の手の入ったという意味では、マダケ竹林の北限かもしれないね。」という阿部さんのお話を伺い、「ぜひ一緒に拝見させていただきたい」とお願いをして今回の同行が叶いました。
せっかく鶴岡に行くので、以前トークでご一緒させていただいた「日知舎」主宰の成瀬正憲さんにもお声がけしたところ、見学する地区がご自宅から車で15分のところだという偶然が重なり、ご一緒することになりました。
マダケの産地といえば新潟にも佐渡があります。佐渡は竹細工で有名だったのですが、近年は、職人の高齢化や竹細工製品の需要減少などで、マダケの竹林は荒れてきてしまっているとのことで、かつてのような地域産業としては維持が難しくなっているようです。
阿部さんは、大分県の別府で竹細工を学び、職人としての仕事をスタートされている経緯から、新潟に戻られた後も九州の真竹を使っているとのことですが、「材料が住まいの近くで手に入るにこしたことがないよね。佐渡も検討したけど、島なので船による運搬費がどうしてもかかってしまうんだよね。」とおっしゃっていました。
今回、温海町の竹林を訪れた経緯は、竹林の維持管理を担っている鈴地区の自治会のみなさんが、「自分たちの竹をもっと活用ができないか」と鶴岡市温海町の観光活性化事業と絡めて検討をされる中で、インターネットを通じて阿部さんのことを知り、「ぜひ一度私たちの竹を見てもらって、竹材・竹林の活用について意見をもらえないか」とお声がかかったそうです。
阿部さんの工房のある新潟市西蒲区からは高速を使って2時間あまり。村上の笹川流れからほど近い、温海町の五十川(いらかわ)・鈴(すず)というエリアにある、日本海沿いの国道7号線からすぐの場所に、その竹林を抱える山はありました。
道路脇から1本道を入るとそこはもう山。自治会長の佐藤さんのご案内で、斜面に沿った道を車でくねくねと上がっていくと、目の前に竹林が現れます。
雨が降っていたので、滑りやすい足元に気をつけて進んでいくと、うっそうとした竹林内に入ります。
竹林にはマダケだけではなく、栗やクヌギ、柿といった広葉樹や杉もところどころに植えられていました。元々畑として使われていた土地の名残だそうです。
足元にはマダケの地下茎が見えたり、色々な葉っぱが落ちていました。
地区の方は、維持管理されているといっても、それを専業としてやっているわけではないため、みなさん長年やられている(一番長い人で30年以上)方に教えられながら、毎年一回有志で集まり、この11月に伐採をし、少しずつ間引く作業をやっているそうです。この日は30〜70歳代まで(メインは60歳代)計15人で伐採作業をされていました。
途中、昨年伐採した竹が横たわっていたところがありました。置き場は他所へ持っていくのが大変なので、邪魔にならないような場所にまとめて置いておくのだとか。
斜めに倒れているのが、倒竹や今年の伐採によるもの。
竹林は密ではありましたが、思ったほど暗くなく、やはり人の手が加わっているのだと実感します。
まっすぐに伸びる竹や枝葉が凛とした印象でした。
足元は落ち葉などでふかふかしていて、歩いていて気持ちのよい竹林です。
また、上を見上げるとカサカサとした枝葉が見え、昼の光も入ってきます。
自治会長(以下会長)“ここのカラ竹(マダケのこと、鈴地区の皆さんはそう呼ぶ)は、一応管理するのに予算もあるので、肥料はやっているんです。昨年は230本、欲しいという人の元へ販売させてもらいました。でもその伐採を自治会有志でやるのには、とっても大変でした。だから今年はできない。ここの竹は1年おきくらいに豊作になるんです。肥料もやっているし、質はいいのではないかと。ここは日本海側だけど、対馬海流(暖流)の影響を受けているから、割合あったかいんですよ、内陸に比べて。ここは山形で一番雪が降らないんです。内陸にはマダケはない。ただ、冬雪に降られるとダメだね。折れてしまう。春はね、筍が美味しんですよ!”
春になると、地区の皆さんで筍を採りに行き、6月には「鈴カラ竹まつり」という筍のフェアを開催。30年前からやっているまつりで、筍汁にしてふるまったり、海の幸などとともに朝採りの筍を販売しているそうです。
会長 “カラ竹はね、孟宗竹より生えてくるのが1ヶ月遅れるんです。もちろん、孟宗竹の筍の方が断然美味しいのですが、ここの筍は、通常のカラ竹だと「えぐみ」があるんですが、ここのは全然「えぐみ」がなくて美味しいですよ。”
ただ、筍の採れる量が毎年一定せず、沢山とれれば問題ないのですが、収量が少なすぎてまつりが行えない年もあるのだとか…。そのため、近隣や道の駅にしか出回らない筍になっているといいます。
阿部さんは竹林を見て、「これだけの竹林の規模で、こうして地区ぐるみで管理できているのは、貴重なことだね。」と何か手ごたえを感じていらっしゃるご様子でした。
会長 “この竹林をね、なんとかこの11月の間伐の時期と6月の祭りに合わせ、ツアーのようなことができないかと考えたりしているんです。鶴岡市役所温海庁舎の観光課の方や自然における体験活動を企画なさっている方と一緒に。”
阿部さん(以下敬称略) “そうですね。道をきちんと整えれば、散策もいいかもしれませんね。”
「せっかくなので、何本か伐っていきますか?」と自治会長さんがおっしゃり、その場で「それじゃ、1本いただいていきましょう」と阿部さん。加工に良さそうな太さに成長した(2、3年の)竹1本を選び、あっという間に切り分けていらっしゃいました。
会長 “竹の年齢はどうやって見分けるんですか?”
阿部 “枝を見れば、だいたい1年に1本ずつ枝が、枝分かれして生えていくので、何年かわかるんです。あとは色で見分けるのが一番ですよ。寿命は6,7年。一番使いやすいのは3年位ものですね。1年目はまだ足元に皮が残っているんです。”
この日は雨で想像以上に蒸し暑くて作業も思うように進まないとのことで、早めに切り上げ2時間ほどで伐採作業は終了となりました。
ご自身も「シャキシャキおろし(鬼おろし)」(竹の大根おろし器)を作ったり、30年以上竹林管理に関わり、地元のカラ竹の広報役をなさっている男性は、「これは昔から立派な竹だって伝えられているんですよ。8枚に裂ける(割れる)んだって。だから竹細工屋さんは数いっぱい取れるので儲かったんだって。節が高くなくて、素性の良い竹なんだと。そうとう昔っから竹林はあったよ。竹材としての価値が昔はあったんでね。今は道路があるけど、昔は道路もなく、全部人力で担いでたんだよ。それだけ事業として成り立ってたんだね。ここは「台風なし」と言われ、風がない分、生育もいいんですよね。ただ、雪でやられる。ところどころ、倒竹対策に木を植えているんです。あと杉の木とは競争して伸びるらしいんですよね。」
広報役の男性 “竹林管理人が一人でもいればいいんですけどね。あと綺麗にして遊歩道でもできたらね。竹林の散策、深緑の竹はすごいですもんね。この辺の家は、みんな山持ちなんだ。でも管理となるとなかなかできない。私も1年に一回山に入ればいい方なんです。”
会長 “去年、花が咲いたんですよ。言い伝えでは、竹林では花が咲くと、それは寿命が来た証で、翌年枯れてしまうのだとか。でもまだ枯れていないですけどね。”
広報役の男性 “寿命120年説もあるし、60年説もある。120年じゃ当時を知っている人ほとんどいないからね。私が聞いた話では、かつて竹林が枯れてしまった時、一番最初は紫の花が咲いて、その次に白い花が咲いた。そういう記録は石に彫っていればいいですけど、残っていない。せめて私の聞いたことは記録しておいているんだけどね。”
その後7号線に面した、自治会長の経営されるそば処「売虎庵」(うるとらあん)にて、昼食をいただきながら阿部さんを囲み、しばしの歓談に。
竹林管理に30年以上関わってきた村の大工さんの話では、「わたしらの上の上(じいちゃんたち)の世代までは竹を竹材として売ったり、加工してばあさんたちがさらに編み加工をかごやてご(漁師のかご)といった売りものにしたりしていた。けどいつのまにか、編みはまだできるかもしれないけど、竹の材料そのものをひごに加工したりできる人がいなくなってしまった。それを専業にする人がいないからね。」
実際、鶴岡市にもかご屋はあるそうなのですが、そこに鈴地区の真竹を竹材として入れるには、その手前での「加工」が大変で手間がかかるので、事業としては成り立たないということでした。
会長 “ひごっていうのは私たちでもすぐにできるもんですか?”
阿部 “できますよ。ざっくりとしたひごであればナタと小刀があれば。マダケはね、乾燥も早いし、割ればすぐに使えるんですよ。ただ、私たちが伝統工芸品として編み作業をする場合は、もっと繊細な厚みや幅のひごが必要なので、専用の道具を使って、私たち職人は自分でひご作りからやるんです。”
会長 “なるほど。それ専用の道具もそろえなきゃいけないんですね。私たちが竹をあまり手間をかけずに使えるとしたら、どんな使い方ができますかね?”
阿部 “それこそ、筍を販売されているなら、筍を入れる「かご」をそのマダケのひごで作るとかね。編む技術はあるというなら、それがまずできることかもしれない。”
会長 “では、次回いらっしゃる12/11には実際に、うちの竹を使って「ひご」づくりをやりませんか?阿部さんに教えていただきましょう。どんな竹を用意しておけばよいでしょう?”
阿部 “さっき伐ってきた3年くらいのものが使いやすいね。6寸、7寸くらい。あとは、「竹箸」とかね。温海町の温泉旅館で使うとか、どこか使う先(需要)がないとなかなか商品化するには難しいかもしれないけどね。”
・・・そんなやり取りが続きました。
短時間ではありましたが、「地域にある素材」をいかにして「生きた素材」にしていけるのか、そこにはもちろん地域の人達の思いや生かす手が必要なうえ、「他所からの目や人」が加わってこそ動くことがある。そういった端緒を感じた現地見学(フィールドワーク)となりました。
後日12/11には、もう一度阿部さんが現地に行かれ、実際に竹のひご作りから箸をつくるという実践編をやられることになり、成瀬さんもご参加されたとのこと。またその時のお話を伺えたらと思っています。
<こぼれ話>
売虎庵さんにあった鶴岡の民芸品「御殿まり」。栃尾の手まりにも近いなと感じました。また、自治会長自慢のお蕎麦ももちろんですが、沖で獲れるという「ガサエビ」の天ぷらが最高に美味しかったです!窓から日本海が眼前に一望できるのが贅沢かつ開放的で素敵なお店でした。
ENZA w#002「カマダイ」@室礼 開催しました
あっという間に師走入りしてしまった2016年。今年初めてとなるワラ細工のワークショップ「ENZA workshop#002 カマダイ」を11/23の祝日に行いました!まずは皆さんとの記念写真から。
「室礼」で開催するのは久々ですが、西区在住の講師・山際辰夫さんと行う「カマダイ」作りは今回でもう5回を数えます。
材料となるお正月の「注連縄」用のきれいな青藁。今年も山際さんにご用意いただきました。
余分な葉の部分をすぐって、綺麗な束にした藁をカマダイ用に長さを切りそろえていきます。スタート前の準備時間、すっかり慣れたご様子です。
そしてワークショップがスタート。青い藁束に触るのが初めての方も多く、加工しやすいよう叩いた(機械で潰した)後の柔らかさを感じたり、香りを嗅いだりしていました。草餅に似たような、いい香り。
「ENZA」という名をつけた本ワークショップ、文字通り「円に座って、縁ができて・・」となるよう座布団を円状に並べています。
芯にするのは「くず藁」。まさにすぐった後の葉の部分を使います。昔は「くず藁」を藁布団の中に入れ、最後まで利用していました。穂の出る直前で刈り取った藁のため、穂はありませんが、その穂先部分も、山際さんは「注連縄」のお飾り部分に使います。これで無駄なく稲藁を使うことになり、山際さんが常々おっしゃっている「稲藁は捨てるところがないんだよ。全部使えるんだ」ということを実感します。
下の写真は、山際さんお手製の注連縄の飾り部分。大黒米の前後にある細い部分が、先ほどの穂先の藁です。細かさがお飾りの繊細さを引き立てています。
さて、ワークショップでは、くず藁を用いた芯作りに入っていきます。
ワークショップを重ねてきて思うのは、カマダイ作りのポイントは、この「芯作り」ではないかと。この芯が凸凹していたり、細すぎたり、ぐらついていると、仕上がりもうまくいきません。芯がしっかりして、かつ平らで平均的な分厚さになるように作ることが大切です。
2回目のご参加となる方も、しっかりと芯作りをなさっていました。藁でのくくり方があまいと緩んでしまうので、確実に留めていきます。
一見簡単そうに見えるのですが、意外に難しいこの作業。この芯作りが肝心なので、しっかり触って厚みや密度を調節しながら丁寧に作っていきます。
作りたい大きさが大きいと、その分芯も大きく、しっかりと作ります。
手で押さえたりして、密度を確かめているところ。
時間はかかりますが、丁寧に皆さん作っていらっしゃいました。
作りたいカマダイの大きさよりも2cmほど小さい円になったら、はみ出た藁をカットし、平らな表面にしていきます。
これで芯の完成です。今回は、大きさを一律にせず、それぞれにご希望の大きさのカマダイを作っていきます。
芯ができたら、いよいよ編む作業です。
毎回取る藁の厚さ(本数)を一定にし、左右の順番をいつも同じにして、編み込んでいきます。
仕組みがわかるとスイスイ編めるようになりますが、それまでは手に力が入ったり、頭で考えてしまったりします。でも慣れてしまうと、簡単なんですよね。山際さんはお一人お一人にわかりやすく教えてくださるので、参加者の皆さんも飲み込みが早くてびっくりです。
その山際さんに教えていただいた私(ENZA世話人の桾沢厚子)も、ようやく一通りは教えられるようになったかなと思います。でもまだまだ…。
コーヒーの湯沸かしポット用にと「小ぶりのカマダイ」に着手された2回目の参加者さんは、すっかり手つきが安定していらっしゃるようです。網み目の仕上がりも綺麗!
お隣さんに楽な持ち方をアドバイスされていました。「ENZA」は自分のできることを持ち寄って交換したり、お互いに技を磨いたり、興味を深めたり・・という場をめざしているので、こういう場面は嬉しいですね。
「室礼」の階下、KOKAJIYAはお昼時。お腹の空く時間帯でしたが、皆さん手を休めずに作業に集中されていました。
ここからは編み込み作業の様子が続きます。
だいぶできてきました。
編み込みで円を一周し終えると、仕上げにイグサの縄でしばります。山際さんの手で綺麗に縄ないされたイグサの縄。
一番最初は、先ほどの「小ぶりのカマダイ」を作られていた方のカマダイが完成しました!
そして他の皆さんも、次々と仕上げに入ります。
動画撮影で記録も。ここ、重要ですね。
あとは、端っこを切り揃えるだけです。
ダッチオーブン用にと、一番大きなカマダイに挑戦された参加者の方も、だいぶ編みあがってきました。
編みあがった方は、残った稲藁で初めての「縄ない」にも挑戦。つるっとしたイグサとは仕上がりは異なりますが、この「縄ない」も楽しい時間です。
子供の頃からの経験がある山際さんの「縄ない」は、なんというか姿そのものがかっこいいです。ズリズリッとリズミカルにいい音が出るんですよね。
無事、皆さん完成し、お茶タイムへ。このワークショップ開催のきっかけになった、もともと小鍛冶屋の蔵にあった古くて美しい「カマダイ」を眺めながら、仕上げの違いについて話したりしました。
参加者の皆さんには、予定より大幅に時間がかかってしまい申し訳なかったのですが、それぞれに思いのこもった素敵な「カマダイ」ができて本当に良かったなと思います。どうもありがとうございました!そしてKOKAJIYAのメンバー、講師の山際辰夫さんにも感謝です。写真はいつもの通り、ブリコールの桾沢和典が担当しました。